函館は「おいしいまち」。その「おいしさ」について考えはじめると、単に料理の味わいにとどまらず、たくさんの背景や側面が気になります。例えば地域の産業や市民の毎日の暮らしにはじまり、コロナ禍や気候変動など、地球が直面する大きな課題までもが見えてくるでしょう。自分や家族を主語にしながら、「食」から開かれる広くて深い世界を意識してみませんか。
「人口=社会と経済の基盤」です。日本の人口がピークを迎えた2008年以降、この国は確実に人口が減っていく時代に入りました。とりわけ北海道では高齢化もさらに進み、あと20年もしないうちに88万もの人口が減少すると推計されています。そのとき函館市の人口は、19万人を割っているでしょう。こうした時代では、どんなことが問題になるでしょうか?
北海道の年平均気温は、今世紀末には20世紀末に比べて5度も高くなるという予測があります(札幌管区気象台)。温暖化によって北海道のコメはさらにおいしくなるとか、ワイン用ブドウの栽培が盛んになる、といったことが話題になります。しかし自然の変化は、それほど単純ではありません。温暖化は、北海道の一次産業にとってもまた、光と影をもたらします。
日本の食糧自給率は、カロリーベースで約37%(2020年)。食料による大人1人あたり1日の供給熱量の目安2,426kcalのうち、63%の1,528kcalは輸入された食品で賄われている計算になります。どんなものがどんなところから輸入されているでしょうか。そして日本から輸出されている食料は?(北海道に限れば、食料自給率は210%に跳ね上がります)。
まだ食べられるのに捨てられてしまう食品がたくさんあります。食材をムダにしない、店でオーダーしたものは食べきるなど、一人一人が、できることから始めなければなりません。おいしく食べられる期限を示すのが「賞味期限」。安全に食べられる期限を示すのが「消費期限」です。賞味期限を過ぎてしまっても、すぐ食べられなくなることはありません。
時代ごとに健康食ブームがあります。でも○○を食べさえすれば健康になる、という単純な考え方は正しくありません。有害なものを除いて、○○は実はカラダに悪い、と決めつけるのも良くありません。食の基本は、必要な栄養素を、バランス良くおいしく摂取すること。過度なブームは、私たちの論理的思考、「科学リテラシー」を試す機会でもあります。
「家庭で食生活を担うのは女性の役割」̶。それは自然な考え方でしょうか? 料理も育児も介護も、男性は「手伝う」ものでしょうか?「 担う」ものでしょうか? ひとつの正解はありません。でも時代とともに、男女の協働をめぐる考え方は変わっていくはずです。特に生きることに直結する食についての知識や技術は、男性も身につけておくべきではないでしょうか。
長いフードマイレージは、輸送のために大量のエネルギーを使うことを意味します。また、食糧自給率が低いことも表します。フードマイレージを考えることは、食卓にのぼる食べ物について、どこのどんな人がどのように生産しているかを意識することにつながります。暮らす場所に近いところから食べ物が調達できたなら、環境負荷も少なく、さらに地域もうるおいます。
世界自然保護基金(WWF)は、1970年からの40年あまりで魚類などの海洋生物の個体数が半分近くになったという報告を発表しています(2015 年)。将来世代が漁業資源を安定して活用していけるために、生活者にも気づきが求められています。漁獲や生産の現場から加工・流通、消費までを見据えた、持続可能な漁業を実現する認証制度の取り組みがあります。
気候変動によって一次産業の生産現場は不安定になっています。地球規模で見れば人口は増え続け、食料や水の不足も大きな問題です。高齢社会では、ながく健康でいられることも、より重要になるでしょう。こうした食をめぐる問題解決の方法として、フードテックがあります。新たな技術は新たなサービスやビジネスを生み、私たちの社会をもっと強く豊かにします。
黙食や店内テーブルのアクリル板など、コロナ禍は「食」をめぐる世界の風景を一変させました。しかし一方で私たちは、食べることが持っている意味や価値を考え直すこともできたのではないでしょうか。人は何のために料理を作り、テーブルを囲むのか。食の世界には、どんな人々がどのように働いているのか。コロナ禍の時代に、そんな問いを意識してみませんか。
「垣ノ島遺跡」では、縄文時代早期前半からおよそ6000年にもわたって集落が作られていました。「大船遺跡」も、縄文時代中期に人々が1500年あまり暮らした歴史を持ちます。人骨の分析から、これら太平洋沿岸の縄文人は、ほかの地域にくらべて、海の幸をたくさん食べていたことがわかっています。食糧資源が豊かなので、長く定住することができました。
大量生産と大量流通を軸にした農業の対極にあるのが、「伝統野菜」や「在来作物」と呼ばれる野菜づくりです。土地の風土と人の手によって古くから作られてきた作物を、土地の人々が世代を越えて味わっていく風習は、地域固有の大切な文化ともいえるでしょう。そしていま、歴史ある作物から、新しいおいしさを引き出そうとする取り組みにも注目が集まっています。
日本海側ではウニ・アワビ、イカ、マグロ一本釣り。津軽海峡から太平洋側では、コンブ、マグロ延縄、ホタテ養殖など、3つの海に囲まれた道南では、地域ごとに特色ある漁業が営まれています。近年のイカの不漁はニュースでも取り上げられていますが、補うようにブリの豊漁が話題で、「ブリたれカツ」など、新しいメニューの開発も進められています
道南の農業では、水稲をベースに、八雲の酪農、森町の養豚など、各地の風土に合わせた多様な景観が広がっています。函館を中心にした渡島中央部では、トマト、キュウリ、ネギ、ニンジンなどの野菜の生産が中心で、ほかにカーネーションなどの花きやリンゴなどの果樹の生産も盛んです。南西部は米や小麦のほか、知内のニラなど、個性的な農業が見られます。
昨年度スタートした「第三次函館市食育推進計画」では、子どもばかりではなく全世代での、「生活習慣病の予防、若い世代の健康や栄養に関する興味や知識の上昇」がうたわれています。生きることの基盤にある「食べること」の意味や考え方をあらためて意識することは、函館が「『おいしいまち』であるために」、とても大切なことではないでしょうか。
まちの活力や豊かさは、そこに暮らす人々が、生活の価値や楽しみをどのように育んできたのかで決まっていくのではないでしょうか。ベースにあるのが、食をめぐる、そのまちならではの歴史や多様な文化です。「フードウェイズ」の探究がもつ可能性は、地域の食文化に新たなテクノロジーを掛け合わせて、より豊かで個性的な食の世界を拓いていくことにあります。
函館市街地の上水は、亀田川、松倉川、汐泊川の水系を使った3つの浄水場で作られます。きれいな河川水を、微生物を使ってゆっくりと水道水にする「緩速ろ過」という方式も取り入れているので、「おいしい水」が届きます。大都市の多くは主に、化学薬品を多用した「急速ろ過」を軸にしています。汚れた水は、砂や砂利、玉石の層を通ることで、浄化されていきます。
海や畑から上質な食材がふんだんに集まる函館は、日本でも有数の「食」のまち。おいしさをめぐって、さまざまな人々が関わり合っています。函館がさらに「おいしいまち」であるためには、何が必要でしょうか? 新たな名物料理でしょうか? ヒット商品でしょうか? それだけではないでしょう。私たちは、「食」に関わる人々が、もっと深く広くつながることだと思います。
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