科学と社会、科学とメディアの関わりについても、たくさんのことを考えさせています。特定の人々に対する排除や、企業や個人に向けて敵意をぶつける「自粛警察」の動き、「ステイホーム」の難しさなどに見られるように、新型コロナウイルスは、私たちの社会が抱えていた問題を多くの局面であぶり出しています。
新型コロナウイルス感染症のほか、エボラ出血熱やSARS(サーズ・重症急性呼吸器症候群)、MERS(マーズ・中東呼吸器症候群)など、世界では近年、野生動物に由来する新しい感染症が次々に出現しています。その原因は、貧困に起因するブッシュミート(サルなどの野生動物を食肉にする)の流通や、過剰な森林開発などによって、人間と野生生物の接触が拡大していることにあります。野生生物とどのように距離を保つべきか。そして爆発的な感染にどう対処すればよいのか—。その難問が、科学と社会に問われています。
1860年代。ルイ・パスツールが目に見えない微生物の存在を証明しました。1880年代以降、結核菌やコレラ菌など、人間に病気を起こす細菌が発見されていきます。細菌よりも小さなウイルスを肉眼で見ることができたのは、電子顕微鏡が発明された1933年のことでした。経済や交通の発達とともに、ウイルスはヒトや動物といっしょに世界を移動するようになりました。
社会の豊かさを計るものさしを、人々の多様性という観点から考えてみましょう。いろいろな人々が活躍できる社会は、誰にとっても生きやすい社会です。感染症や自然災害、経済危機、紛争など、この先なにが起こるかわからない不安の時代。いま新型コロナで苦しむ人々を含め、生きづらさを抱えている人々を包み込むことで、社会はより多様に、そして強くなることができます。
information(情報)+epidemic(エピデミック・伝染病)からの造語 infodemic(インフォデミック)。ソーシャルメディアなどを通じて、不確かな情報が大量に拡散されてしまう現象です。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)をめぐっても、科学的根拠のないさまざまな情報が世界中に広まっています。
Coronavirus disease (COVID-19) advice for the public: Mythbusters
「疑似科学」の中にも一定の合理性があります。インチキなものとしてすべてを否定して済むものではありません。私たちは疑似科学とのつきあいを通して、理にかなったものとそうでないものを見分ける、クリティカル・シンキング(批判的思考)の能力を高めることができます。それは21世紀を生きるために欠かせない力です。
プログラミングの技術で地域との関わりを深めたり、社会に貢献できたなら、どんなにおもしろく、有意義なことでしょう。函館にもそんな思いを持った若者や関係者が学び合い、活動しています。新型コロナウイルスと向き合ういまだからこそ生まれるセンスと技術に、期待が高まっています。
大学に関わるすべての人々の学習と研究活動、社会活動を支えるために。公立はこだて未来大学では、例えば体育館を大講義室仕様にして、ライブラリーでは、本の除菌を徹底しながら貸し出しを事前連絡制に。そして電子書籍の提供にも積極的に取り組んでいます。教務課など事務局でも、分散化や手作りシートの設置など、「密閉・密集・密接」を避けるさまざまな態勢を整えています。
人々の目にふれない存在である下水道ですが、下水のサンプルから新型コロナウイルスの粒子を見つけ出して感染拡大の防止に役立てようという研究が、日本の内外で進められています。また近未来の下水道は、これまでの役割にとどまらず、エネルギーや食糧、そしてにぎわいをも作り出す場となるでしょう。
旧石器時代の人々は、火と光のまわりに集まりました。そこから人間らしい感情や文化が育まれました。危機を共有して解決のために助け合い、力を合わせることができる。ほかの動物たちとはちがうこうした能力によって、人類は今日の文明を築きました。現在の災害時でも、光の大切さが問われています。光はすこやかさのエネルギーです。
ペストは、人類を苦しめてきた代表的な感染症のひとつです。起源は中国雲南省にあるといわれます。また1095年〜1272年、ヨーロッパのキリスト教勢力が聖地エルサレムを奪還するために数度の遠征(十字軍)を行い、戦利品にまぎれこんだネズミなどによってもペスト菌がヨーロッパに運ばれました。
コレラは産業革命がまねいた感染症です。近代工業が起こって都市に人口が集中するようになり、非衛生的な水の環境が流行の要因となりました。都市の下水はそのまま川に流れ、未処理のまま飲料水になっていたのです。地域や人間集団で発生する病気を研究する「疫学」が生まれ、清潔な上水道の整備が進められるようになりました。
コレラの原因が汚れた飲み水にあることが科学的に解明されると、1888(明治21)年、北海道で最初(全国でも2番目)に、赤川地域を水源とする上水道の整備がはじまりました。それまで何度か計画が作られましたが財政の目途が立たず、このタイミングで実現したのは、コレラで危機感を強めた政府の補助があったからでした。
1885(明治18)年、内務省は近代的な検疫施設の設置を開始します。中心にいた人物が、医師でありのちに外務大臣や東京市長を務める後藤新平です。後藤が来函して、台町に消毒所が設けられました。翌年には付属避難病院が建てられ、「函館消毒所」が開設されます。日清戦争(1894-95)では、23万人もの兵士が戦場だった大陸から各地に帰還しましたが、彼らの検疫を指揮したのも後藤でした。
毒性が弱い牛の天然痘の膿(うみ)を接種して天然痘に対する免疫をつくるのが、イギリスの医師エドワード・ジェンナーが発明した予防接種、「種痘」です。エトロフ島の漁場で働いていた中川五郎治は、ロシア軍に襲われてシベリアに連行され、ロシアで種痘の研究書を独学しました。長崎でオランダ人医師がはじめる時代に四半世紀も先駆けた取り組みでした。
朝食をとらない人が多く、運動不足で、タバコによる健康被害も心配—。函館市の調査から、函館市民のそんな姿が見えてきます。こうした傾向が、健康寿命や生活習慣病の割合にもあらわれています。特に、男性ばかりでなく女性の喫煙率の高さが函館の特徴となっています。
むだを省いて効率を求めていくビジネスの世界と、それを支える社会の基盤は同じ原理で作られるべきでしょうか。感染症や自然災害など、未来へのリスクが強く意識される時代。地域を強くしていくのは、スピードと効率を重視する上からの管理と、互いの信頼や共感を育む自律的な管理、どちらの方向でしょうか。
日常生活から産業経済まで。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、私たちの社会を大きく変えています。誰もがより健康で、安全な備えができた世界をめざした「新しい生活様式」へ—。それは、このあとにやってくる未知のウイルスに備える意味でも、私たちが実現しなければならない変化であり、イノベーションです。
未知の問題と直面するとき、人は困難の中でも、さまざまな気づきや学びを実感できます。その経験を糧にできれば、私たちはよりしなやかに、そしてすこやかに、未来を考えることができます。
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