海の科学が運ぶまちづくり
文/鈴木せいら 写真・構成/佐々木康弘
※写真本文中2枚目はSSH事務局が提供
水産・海洋のまち、函館の新展開
弁天町の旧函館ドック跡地に2014年6月オープン予定の函館市国際水産・海洋総合研究センター。「水産・海洋のまち、函館」の更なる発展をめざし、様々な研究機関が集結する。福田さんは、同センターの管理運営を行うことになっている一般財団法人函館国際水産・海洋都市推進機構(以下 推進機構)という組織で産学官連携コーディネーターという職務を担っている。推進機構は、2010年に写真展やチョウザメシアターの企画運営ではこだて国際科学祭に初めて出展。翌年からは科学祭を主催するサイエンス・サポート函館(以下SSH)に参加機関として加わり、海の分野から科学祭を盛り上げてきた。
「新しく出来るセンターは、研究施設としてはもちろん、市民の皆さんに見学してもらえる観光スポットとしての側面もあります。せっかく函館の土地で得られた研究成果を、多くの人に広めていきたい。函館には科学館がありません。ですが、科学祭に来てもらえば、かしこまって勉強しに行かずとも、お祭りという形で科学を体験し、遊ぶことができる。科学祭がきっかけになって、子供たちが科学を自分で考え、見つけていけるようになると良いと思います。そのために、いかに分かりやすく伝えていくかを、推進機構としてもSSHとしても目指しています」
2013年に科学祭の中で推進機構が市民グループ「海藻おしばサークル」と手掛けたイベント「海藻おしば教室」。赤・茶・緑のカラフルな海藻をパーツとして用意し、子供たちに思い思いの絵をハガキ大の画用紙の上に作ってもらう。それを乾かしラミネート加工して、子供たちの手元に郵送。工作をして終わりではなく、自分の作品がハガキとして届く嬉しさがある。大変な好評を得て、福田さんも「ああ、楽しんでもらえてよかった」と、伝える喜びを実感したという。
焼き海苔は冬の姿?
もともと、福田さんはノリの研究をしていた水産科学の研究者だ。高校生のころ、「DNAを解明すれば生物のすべてがわかる」と話題になっていたバイオテクノロジーに惹かれて農学部への進学を目指した。当初は植物の研究がしたかった。だが、恩師の「海藻だって、海のなかの植物だ」というひとことがきっかけとなり、水産植物の世界へ進んだという。
科学祭では、ノリに関する専門知識をサイエンスカフェのトークゲストとして披露したことも。「私たちが普段食べている海苔、あれは冬のすがたなんですよ」ノリは、海水温の変化を感じ取って夏と冬では姿を変えるという。冬は、葉っぱのような平たい形。温度が上がる夏には糸状になり、貝殻などに潜伏して次の冬をまつ。「ノリのDNAは変わらないのに、温度によってその姿が変わる。不思議だと思いませんか?」身近な食べ物として口にしている海苔に、そんな特質があるとは意外だ。
かつて、海苔漁は採れるか採れないかの賭けのようなものだった。だが今では、ノリという海藻の一生や特性を知ることによって養殖が可能になり、安定して生産できるようになった。科学的な裏付けが、私たちの生活に役立っているのだ。「知られていないだけで、科学というものは実はとても身近なところにあるものなんですよ」
函館といえばイカ、と思いがちだが、イカは海流に乗って日本列島を回遊しているため、函館特有のものというわけではない。「でも、海藻はその土地でしか採れない、そこにしか生えていないオンリーワンのものなんです」つまり、この土地ならではの海藻をアピールすることによって、新たな産業を創出することができる。函館は、まだまだ未知の可能性が眠っているのだ。
科学祭が文化として根付くまで
「SSHでは『科学を文化に』というスローガンを掲げていますが、その言葉に共感します。例えば、函館の港まつり。もしも何かの事情で今年は港まつりができない、という事態になったら、どうなると思いますか?きっと『じゃあ、私たちの手で港まつりをやろう』という声が上がるでしょう。それは、祭りが文化として根付いているからだと思うのです。科学祭も、万が一今運営しているスタッフたちでできない、となっても『私たちで科学祭をやろう!』と市民に思ってもらえるように。科学祭でこういうことをやりたい、私も参加したいと思う人がどんどん出てきてくれたらいいなと思います」福田さんの言葉には、静かな熱意が込められていた。
この春には、青森への異動が決まっている福田さん。「ずっと海藻の研究は続けていくつもりですし、函館で学んだことをこの先に活かしていきます。将来的には、自分が科学祭の他地域でのサテライトになれたら」
海が教えてくれた科学のおもしろさ、夢の広がりを、ずっと伝え続けていきたい。福田さんの話からは、そんな熱いメッセージが感じられた。
2014年3月取材