スタッフインタビューSSH星人

科学を函館の誇りに―加藤 加奈女さん

取材・執筆:細川 桜(北海道教育大学函館校 マスコミ研究会)


イベント運営にはメインイベントなどの目立つ仕事以外にも、会議の準備や議事録の作成など細々とした仕事が沢山ある。むしろ、目立たない仕事の方が多い。しかし、それらの仕事をひとつひとつ積み上げていかなければ、イベントは成り立たない。決して疎かにできない重要な仕事だ。SSHを影で支える、縁の下の力持ちが加藤加奈女さんだ。

秘書を通して学んだこと

「人と出会い繋げていくことが好き」と語る加藤さん。以前、秘書をしていた時に「表に出ず、裏でサポートすることが自分には合っている」と気がついたという。秘書という仕事との出会いは、大阪芸術大学を卒業後、大学に残り副手となり学長の秘書を務めた時。小さい頃から、幼虫の観察と飼育が趣味だったが、難解な科学研究にはあまり興味がなかった。しかし、大阪大学基礎工学部で「感性情報処理の情報学・心理学的研究」の総括秘書として科学に触れたとき「科学のプロでなくとも、科学を楽しむことはできる」と感じた。

科学祭が大きな自信に

SSHに参加するようになったのは、SSH代表である美馬のゆり先生に誘われたことがきっかけだった。「何が起こるのか分からず、私は何のために必要とされているのかわからなかった」と当時の心境を振り返る。科学の初心者である自分が実行委員として参加することに、初めは劣等感もあった。

そんな気持ちは、科学祭を通して少しずつ変化していく。科学祭で主に、ドクター・バンヘッド・サイエンスショーの座席決めやチラシづくりを担当した。やったことがあることと、ないことがあったので最初は戸惑うこともあったが、先生や学生と力を合わせて取り組んだ。その甲斐あってか、科学祭はのべ8,500人の来場という盛り上がりで幕を閉じた。
科学祭の成功は大きな達成感となる。動いただけのことがそのままはね返ってきた。娘が科学に興味を持ってくれた。普段の仕事と異なり、先生や学生たちとの多くのふれあいがあった。そして何よりも、自分自身が楽しむことができた。

「自分の立ち位置を模索する中で、自分にも参加できることがある、自分でも役にたつことができるということに気が付きました」

SSHの実行委員の多くは、科学に関して専門分野があったり、イベント運営の経験が豊富であるため、自分が科学祭のためにどう動いたらいいのかをよく知っている。「私は特にそういう分野を持っていませんが、秘書をやってきた経験があります。本当に小さいことで、誰も気がつかない隙間を埋めることが私の役割だと感じています」そう語る加藤さんの表情には、“人をサポートすること”への自負が感じられた。

科学祭が終わった後は、事業報告書の作成やお礼状の送付、科学祭関連の記事のスクラップなど、来年に向けての準備がある。どの仕事も、細々としていて、決して目立つものではないが、組織やイベントを成立させるためには欠くことのできない仕事だ。

誇りを持てる函館に

京都出身の加藤さんが函館にやってきたのは7年前のこと。好きなところは街がコンパクトで、どこに行っても誰かと会い、人と人との繋がりを実感できるところだ。子育てをする加藤さんにとって、函館の人々の温かさは大きな支えとなっている。

函館は今年、全国一魅力的な街に選ばれた(民間シンクタンク「ブランド総合研究所」調べ)。外からは魅力的な街として見られているが、果たして函館に住んでいる人はそう思っているのだろうか。加藤さんは今後の函館について「昔の函館だけを誇りにするのではなく、現在の函館も誇れるようになりたい。その一つが科学になれば」と話す。

科学はどこまで函館の“誇り”となり得るのか。今後のSSHの活動に期待が膨らむ。

2009年9月取材

加藤 加奈女
プロフィール

公立はこだて未来大学事務局

加藤 加奈女(かとう かなめ)

京都市左京区生まれ。同志社女子高等学校卒業、大阪芸術大学芸術学部放送学科卒業。その後、大阪芸術大学副手 大阪大学基礎工学部教授秘書。結婚後、2年前まで専業主婦として働いた。
現在、公立はこだて未来大学にて、会議の調整や議事録作成などの秘書業務とサイエンス・サポート函館事務局の業務を担当している。サイエンス・ライティングを学ぶため、北海道大学科学技術コミュニケーター養成ユニット(CoSTEP)を受講中。
趣味は幼虫観察と飼育・読書・飲むための料理を作ること。

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